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【連載コラム】倉庫業務マネジメント~つながる DX、WES の役割~

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本コラムは、『倉庫業務総合研究会』の渡辺秀治氏の寄稿です。
物流業界は現在、慢性的な人手不足に苦しんでおり、これに対処しなければ、業界が閉塞状態に陥る可能性が高まっています。この危機を打破し、業務改善の新たな道を切り開くためには、生産性向上のワークフローと、倉庫業務マネジメントシステムの再構築が不可欠です。
『倉庫業務マネジメント~つながる DX、WES の役割~』は、これらの課題に焦点を当て、物流業界における長年の経験と専門的な知識に基づいた参考モデルを提供します。
 
本コラムを通じて、倉庫業務におけるDXとWESへの理解を深めていただき、物流業界の未来を切り拓くための貴重な情報源としてご活用いただければと考えています。
シーネットは、今後も渡辺氏と共に有益な情報を提供し、物流業界の進化を牽引し、効率的な倉庫業務マネジメントの未来を築くサポートをていきます。
 
※PDFのDLも可能です。
 

【第1回】倉庫業務マネジメント~つながる DX、WES の役割~

第1章:概要

     

  1. 1) 倉庫業務マネジメントとは
  2. 2) エンタープライズ階層モデルの構造
  3. 3) 機能階層モデルの構造
  4. 4) 物流業務の分類モデルとの関係
  5. 5) ソフトウェア実装のための仕様

 

 

1) 倉庫業務マネジメントとは

企業が物流ネットワークを構築する際には、在庫型倉庫であるDC(Distribution Center:ディストリビューションセンター)、通過型倉庫であるTC(Transfer Center:トランスファーセンター)など物流網の拠点として設置し、企業全体、あるいは、社会全体として、最適な流通を実現するように機能構築します。
 
機能構築する際において、物流ネットワーク内には、さまざまな企業、組織、団体が存在します。物流専業の企業においても、地域ごとの3PL(3rd-Party Logistics:物流業務委託)の活用や運輸の再請負などが行われることも少なくありません。したがって、貨物の情報は必ずしも1社のシステムで完結するものではないということになります。
 
どのような物流ネットワークであったとしても、倉庫内作業についての指示情報は、「組織全体 → 各拠点 → 作業エリア → 装置・作業者」へ伝達されます。そして、指示情報伝達の逆の流れで、作業の結果としての実績情報は、伝達され、集約されます。
 
倉庫業務の自動制御が未発達の段階においては、作業者のコントロールを各拠点に設置された情報システムによる出力によって、人手による荷役作業は、支障なく実行されていました。社会情勢の変化等により、倉庫内作業の自動化が発展し、大量の貨物の処理が可能になることにより、各拠点に設置された情報システムと作業実行のための装置の間には、情報の分断が生じる場合が出てきています。
 
例えば、外部メディアを使った装置へのダウンロードや、装置への手入力などです。また、装置は指示データを持たずに、処理される貨物のバーコードデータ等を読み取り認識することによって、実績データのみを記録をすることもあります。
 
倉庫業務マネジメントでは、作業エリアにおいて、装置の動きを監視し、制御する、コントロールセンターとしての役割を持つ必要があります。WESは、倉庫業務マネジメントの中で、作業エリアの業務を管理する機能を持つ情報システムであるとともに、作業エリアそれぞれに設置された装置のコントロールセンターとしての機能を持つものです。WESは、この2つの機能を必ず備えなければなりません。

 

図 1:物流ネットワークにおける情報伝達

図 1:物流ネットワークにおける情報伝達

 

2)エンタープライズ階層モデルの構造

倉庫業務マネジメントでは、改めて、「指示情報の伝達」と「実績情報の集約」に着目したモデルとして基本情報を定義する階層を明確することを提唱し、「エンタープライズ階層モデル」として定義しました。
 
それぞれのレイア(階層)において、組織として情報システムの基本的な役割を明確にするとともに、業務を実行するうえにおいて、情報の分断が発生しないようにするため、それぞれのモデルにおける階層間の関係を改めて確認することとします。
 
物流ネットワークの中では、モノは拠点を経由して輸送されます。モノが存在する拠点において必要となる情報について階層化し、エンタープライズ階層モデルとして定義します。
 
エンタープライズ階層モデルでは、第一階層をエンタープライズ階層、第二階層をウェアハウス階層、第三階層をロケーション階層、第四の階層をマテリアルハンドリング階層として、階層で基本情報を定義します。
 

図 2:エンタープライズ階層モデル

図 2:エンタープライズ階層モデル
 
■エンタープライズ階層
エンタープライズ階層では、顧客・出荷先の基準、拠点の基準、物流品質の基準、設備稼働の基準、エネルギー使用の基準、人的資源の基準を基本情報として定義します。定義される情報は、全社レベルでの在庫、顧客からの受注、調達、生産管理との接続に関する管理を行うための基本情報になります。
 
■ウェアハウス階層
ウェアハウス階層では、拠点に関する基準、拠点での貨物の基準、荷姿・量目の基準、拠点での顧客・出荷先の基準、保管エリア・保管棚の基準、輸送手段の基準、業務時間の基準を基本情報として定義します。定義される情報は、拠点レベルでの在庫、日次・バッチの入出荷、拠点間の在庫移動・移送、輸送手段の確保などに関する業務管理を行うための基本情報となります。
 
■ロケーション階層
ロケーション階層では、保管場所の基準、作業・設備の基準、梱包資材の基準、流通加工の基準を基本情報として定義します。定義される情報は、保管場所レベルでの在庫、作業レベルでの入出荷業務、流通加工作業、梱包等資材の在庫確保などに関する業務管理を行うための基本情報となります。
 
■マテリアルハンドリング階層
マテリアルハンドリング階層では、装置、および、情報ツールに関する基本設定情報を定義します。マテリアルハンドリング層の情報は多岐に渡り、個々の装置、および、情報ツールごとに異なる基本情報を定義することが必要です。マテリアルハンドリング層の基本情報定義は、『連続処理に適用する定義』と『バッチ処理に適用する定義』に大別されます。
 
連続処理:コンベア搬送のラインでの業務のような連続的な処理
 
バッチ処理:AMR(Autonomous Mobile Robot/自律走行搬送ロボット)での業務のような庫内を集荷して1作業(バッチ)を完了する処理
 

 

3)機能階層モデルの構造

倉庫業務マネジメントは、エンタープライズ階層モデルのそれぞれのレイヤとの関係を明示したうえで、「機能階層モデル」として、主に自動制御を必要とする装置について、倉庫業務のアクティビティを定義します。
 
機能階層モデルは、製造業におけるバリュー・リファレンスモデルを継承した、1990年代後半にISA-95において定義された内容を参考に作成しています。業務を実行するためのアクティビティや、意思決定が行われる管理サイクルの時間スケール(タイムフレーム)が、それぞれの階層を特徴づけています。
 
物流設備は、エンタープライズ階層モデルで定義された、エンタープライズ階層、ウェアハウス階層、ロケーション階層、そしてマテリアルハンドリング階層というそれぞれのレイヤにおける基本情報によって、階層的に整理することができます。
 
機能階層モデルでは、輸送および荷役業務(オペレーション)を階層化して、経営計画(プランニング)と物流設計はレベル4に、倉庫・センター内のマネジメント (WMSの領域)はレベル3に、オペレーションレベルでのマネジメント (WESの領域)はレベル2に、ディスクリートコントロール (WCSの領域)はレベル1に位置付けます。
 

図 3:機能階層モデル

図 3:機能階層モデル
 
エンタープライズ階層モデルと機能階層モデルの関係では、機能階層モデルのレベル4のアクティビティは、エンタープライズ階層を上位としてウェアハウスの階層との接続に対応します。同様に、レベル3のアクティビティは、ウェアハウス階層を上位として、ロケーション階層との接続に対応します。レベル2のアクティビティは、ロケーション階層を上位として、設備・作業との接続について対応します。
 
図 4:物流業務モデルの相関関係

図 4:物流業務モデルの相関関係

 

4)物流業務の分類モデルとの関係 

物流オペレーションは、「物流機能モデル」、「オペレーション管理別カテゴリ」「領域別管理カテゴリ」「装置別管理カテゴリ」など、管理や業務の視点から、色々な分類方法がこれまでにも提唱されています。
 
倉庫業務マネジメントにおけるエンタープライズ階層モデル、および、機能階層モデルは、従来から提唱された分類方法について否定するものではありません。倉庫業務の自動化が発展することによって、情報分断が生じることを回避し、従来からの分類が有効に機能するよう、倉庫業務マネジメントの考え方で包括されている必要があります。
 

 

5)ソフトウェア実装のための仕様

本書に記載される内容については、リファレンスモデルであり、情報システムが直ちに動作するための仕様の記述ではありません。
 
エンタープライズ階層モデルにおける、それぞれのドメインにおいて、ソフトウェア実装のための業務機能を明確にしたうえで、この機能の実現のためにリファレンスモデルを参考にして、組織の環境に合わせたモデルの作成とシステム設計を行う必要があります。
 
構築される機能のうち、ドメイン内(同じ階層内)でやり取りする情報については、システム設計に含められ、ドメインの境界を越えてやり取りする情報については、両方のドメインの業務機能を明確にしたうえで、インターフェース設計にて定義する必要があります。
 
通信インターフェースについて、ロケーション階層の上下(ウェアハウス階層とマテリアルハンドリング階層)間のすべての業務機能について、情報の分断される状況がないように配慮することが重要です。(やむを得ない場合を除き、両方のすべての機能において、再入力が発生しないように設計することが重要です。)

 
<次頁を読む>第2回・アクティビティの定義
 

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